【読書感想】エンジニアのためのデザイン思考入門
今日はこちらの紹介です。
- 作者: 東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト,齊藤滋規,坂本啓,竹田陽子,角征典,大内孝子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2017/12/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この書籍は 東京工業大学のエンジニアデザインプロジェクト(EDP)において、学生と社会人が一緒になってデザイン思考と日々向き合っている様子が描かれています。
そして、この本で描いてるテーマは「デザイン思考」です。
そんなデザイン思考の誤解されやすいポイントや陥りやすい罠に触れながらも「ユーザー体験をデザインする」という本体の目的を教えてくれます。
この本の構成はプロジェクトの成り立ちからチームの様子、そこで見られたチームの成長を経て、アイディアやものづくりの本質を説いています。 今日はその中から私の印象に残った言葉や内容をピックアップしていきます。
EDPの場の作り方
EDPは「世の中に現存しない製品を生み出すための創造性」を掻き立てるためにその場づくりや、生徒だけでなく関わる全員が高い意識を持ったプロジェクトです。 当然、その環境づくりも徹底しています。
その中の一つとして、
「立ってる人と同じ目線で議論できるように椅子は高く。窮屈になるので天井も高く」
という話があります。 これは一見、些細なことかもしれませんが、イノベーションを生むためにはこのような細やかな気配りと、面倒くさがらずにあるべき姿に徹底的に取り込むことが大事だと気付かされます。
ユーザーのこと知らずしてユーザーの課題を解決できるはずがない
EDPではあらゆるバックボーンを持つ人々が集まってものづくりをするのですが、ものには当然、ユーザーがいます。 これはEDPだけではなく、多くのエンジニアと同じ状況です。
しかし、開発しているエンジニアがユーザーのことを理解していることはどのくらいあるでしょうか?
ユーザーインタビューやペルソナを基にした仮説検証自体もまだまだ定着しているとは言えない状況です。 そこで当たり前のように
「ユーザーのこと知らずしてユーザーの課題を解決できるはずがない」
という意識を持つことを実感している学生たちにハッと背筋を伸ばす思いです。
ユーザーすら気づかないことを見つけることが重要
ただ、ユーザーを知ることがゴールではありません。何かしらの課題を解決するということはユーザーの潜在的な課題を認識し、そこにアプローチすることも重要です。
時に
「ユーザーすら気づかないことを見つけることが重要」
ということもこの本で教えられます。
違う立場の集まったチーム
この本で終始見え隠れするEDPの難しさは東工大生と芸大生のすれ違いと各々の葛藤です。 特に、章末のコラムに見られる、それぞれの立場での感想がこの本の魅力の一つです。
東工大生は 物事を論理的に捉え、定量的に表せるものでないと理解に苦しんでおり、 芸大生は 芸大生間では通じていた「もっとモコモコした感じで・・・」や「なんかちょっと違う」といった感覚を指針としていることにより、心の葛藤が見えてきます。
これを素直に表に出せるのはある意味学生の特性であるかもしれません。
一方でこのような状況は大人たちの世界でも当然のようにあります。 エンジニア、デザイナー、企画職、営業職など、チームにはそれぞれバックボーンの異なったメンバーがいますが、 そこには大人のエゴやしがらみ、政治や権力などが重なり、同じように悩んでいても、やがて仲違いするか忖度の元一つの方向に向いてるかのように振舞ってしまいます。
そんなことのないように学生のうちから異業種間でのコミュニケーションを身につけている様はEDPの大きな価値そのものだと感じました。
成長の方向性
そして、この本の中には"T型人材"という言葉が出てきます。 これは
「縦方向に自分の分野を深めながらも横方向に他分野への知識を広げる人材」を指しています。
エンジニアは得てして、一つの好きなことを極めるスペシャリスト人材が多いようなきがします。そして、そこを目指す人間も多い気がします。 しかし、前述のような多くの異業種間でのコラボレーションを考えると、チームをまとめる、一つの方向に進める人材はある程度のジェネラリスト気質つまり、"T型人材"としての素養が必要なのでは?と感じでいます。
プロダクトマネージャーやスクラムマスターというロールにおいても、チームに対して貢献し、理解するにあたり、
「なぜ、このような悩みを持っているのか」 「何を考えているのか」
を察するにはある程度その立場での物の見方が必要で、そのためには自分の得意分野だけでなく、相手の得意分野に寄り添うように知識をつけることも重要な要素だと感じました。
そして私も"T型人材でありたい"と思いました。
圧倒的当事者意識とそこから生まれる熱量
ここまで述べたように「どんな場で、どんな人材が、どんな子跡をする」のが重要かということが学生の経験を追体験する形で感じ取れるこの書籍ですが、
最後には
「圧倒的当事者意識とそこから生まれる熱量が必要」
と書いてあります。
つまり、小手先の技術や考え方、雰囲気を作るだけではEDPではなく、我々の職場においても形を作っただけのただのモデルルームでしかないのです。
それをデザイン思考を持ったイノベーションの場とするためには最終的には「誰かがやってくれる」といった他人への依存と甘えを捨て、圧倒的な当事者意識を持って望む必要があると書いてあります。
そして、そこから生まれる熱量こそが、時に時間や働き方を超えた大きなエネルギーとなり、チームの文化になります。
これを表している一節が、
「文化を作るのに言葉はいらない。ただ行動するのみ」
という言葉です。
日々の忙しさの中で忙殺されていったり、精神的に不安定な状態で延々とコードを書き続ける状態だと、このような意識はロウソクのようにどろどろと溶けていき、いずれはその情熱の炎も消えてしまいます。
そうならないための思考法や場づくり、そして本質は何かということを教えてくれるのがこの書籍であり、 そこから、デザイン思考の第1歩を踏み出し、ユーザーや開発者それぞれの目指すべきものをしっかり見据えたものづくりをしていくことがこの本を読んだ後に再認識できると私は思いました。
是非とも、手に取って読んでみてほしい一冊です。
- 作者: 東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト,齊藤滋規,坂本啓,竹田陽子,角征典,大内孝子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2017/12/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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